ネコは同じごはんの「匂い」に飽きる?岩手大学の研究でわかったこと
「さっきまで食べていたのに、途中でやめた」
「お腹が空いているはずなのに、少し食べて残す」
「別のフードを出したら、また食べ始めた」
猫と暮らしていると、こんなことがあります。
これまで、
「猫は気まぐれだから」
「もともと少食だから」
「野生時代の名残で少しずつ食べるから」
などと考えられることが多かった行動ですが、岩手大学の研究グループが、ここに「匂いへの慣れ」が関わっていることを実験で示しました。
研究を行ったのは、岩手大学農学部の宮崎雅雄教授、高橋巧大学院生らのグループです。
2026年4月、研究成果が国際科学誌「Physiology & Behavior」に発表されました。
今回はこの研究を、「結局、猫のごはんで何がわかったの?」という視点から、できるだけ分かりやすく紹介します。
結論:猫は「お腹いっぱい」だけで食べるのをやめるわけではない
今回の研究で大きなポイントになったのが、
同じごはんの匂いに慣れると、食べる量が徐々に減る
ということです。
そして、
新しい匂いを感じると、再び食べる量が増える
ことも確認されました。
研究グループは、この現象を
嗅覚順応
そして、その状態から新しい刺激によって回復する
脱順応
として説明しています。
つまり猫は、
「もうお腹いっぱいだから食べない」
だけではなく、
「この匂いには慣れてきたから、食べる意欲が少し下がった」
ということもある可能性が示されたわけです。

ごはんを残したら、「お腹いっぱい」ってことじゃないのニャ?

もちろん満腹もあるけれど、それだけではないらしいニャ。

匂いに飽きて、食べる気が少し下がることもあるの?

今回の研究では、まさにそこが実験で確かめられたんだニャ。
そもそも、なぜこの研究が行われたの?
犬と猫はどちらも食肉目の動物ですが、食べ方にはかなり違いがあります。
犬は比較的一度に多く食べる傾向があります。
一方、猫は1日に何度も少量ずつ食べる「少量頻回摂食」をすることが知られています。
その背景には、猫の祖先であるリビアヤマネコが、小さな獲物を1日に何度も捕まえて食べていた生活様式が関係すると考えられてきました。
しかし、
「なぜ途中で食べるのをやめるのか」
については、これまで明確な説明がありませんでした。
しかも猫は、空腹状態であっても食べ残すことがあります。
そこで岩手大学の研究グループは、
「満腹以外に、匂いが関係しているのでは?」
と考え、実験を行いました。
研究には12匹の猫が参加

実験では、12匹の猫を対象にしました。
基本的な実験方法は、
10分間ごはんを与える
↓
10分間休む
↓
また10分間ごはんを与える
という流れです。
これを1サイクルとして、合計6回行いました。
そして、
- 毎回同じごはん
- 毎回違うごはん
- 最後だけ違うごはん
- 食べるものは同じで匂いだけ変える
など、条件を変えて、猫がどのくらい食べるのかを比較しました。
実験1:同じごはんを何度も出すと食べる量が減った
まず、猫に同じごはんを繰り返し与えました。
すると、
回数を重ねるほど、食べる量が徐々に減っていきました。
これは、単純に考えると、
「だんだんお腹いっぱいになったのでは?」
とも思えます。
ところが、次の実験が興味深い結果になります。
実験2:毎回違うごはんなら、食べる量が減りにくかった
今度は、毎回違う種類のごはんを順番に与えました。
すると、同じごはんだけを繰り返したときに比べて、食べる量の低下が大幅に抑えられ、総摂取量も増えました。
つまり、
同じ量を繰り返し食べる条件でも、
「ずっと同じ」より「違う刺激」がある方が食欲が続いた
ということです。

毎回違う味だったから食べたのニャ?

そう思うところだけど、さらに面白い実験があるニャ。
実験3:5回同じごはん→6回目に別のごはんで食欲が復活

今度は、
1回目〜5回目まで同じごはん。
そして6回目だけ、別のごはんへ変更しました。
すると、
5回目まで減っていた摂食量が、6回目で再び増えました。
さらに重要なのは、新しく出したフードが「特別に好きなごはんだったから」というだけではなかった点です。
研究では、餌の嗜好性にかかわらず、別の餌へ切り替えることで摂食量が回復しました。
これが「新しい刺激」による脱順応と考えられています。
でも「味が変わったから」では?
ここまで読むと、
「違うごはんだから味が変わって、また食べたのでは?」
と思います。
研究グループも、そこをきちんと検証しています。
そして今回の研究で最も面白い部分が、ここです。
実験4:ごはんは同じ。でも「匂いだけ」変えたら食べる量が戻った
研究では、上下2層になった特別な餌皿を使いました。
猫が実際に食べる上段には、同じごはんを入れます。
下段には、猫が食べることはできないものの、匂いだけが上に届くよう別のフードを入れました。
つまり、
口に入るフードはずっと同じ。
違うのは、
鼻に入ってくる匂いだけ。
です。
そして6回目だけ下段の匂いを別のフードへ変えると、
同じものを食べているにもかかわらず、摂食量が再び増えました。
これはかなり重要です。
つまり、
味が変わったからではなく、
新しい匂いそのものが食欲に影響した
ことが示されたわけです。

食べているごはんは同じなのに、匂いだけでまた食べたの?

そうニャ。今回の研究の面白いところはそこなんだニャ。

猫にとって鼻は、ごはんを食べるスイッチみたいなものなのニャ?

少なくとも、食べる意欲を調整する大切な情報のひとつと言えそうだニャ。
実験5:同じ匂いを嗅ぎ続けると、さらに食べる量が減った
研究はさらに進みます。
食事と食事の間の10分間に、穴の開いた容器へごはんを入れ、
匂いだけを猫に嗅がせました。
同じごはんを食べている間にも、同じ匂いを嗅がせ続けると、匂いを出さなかった場合より、その後の摂食量が低下しました。
逆に、その休憩時間に別の餌の匂いを嗅がせると、食べる量は比較的高く保たれました。
つまり、
同じ匂いにさらされ続ける
→ 匂いへの慣れが進む
→ 食べる意欲が下がる
という仕組みが考えられます。
「ネコは匂いに飽きる」とはどういうこと?
新聞などでは分かりやすく、
「ネコは匂いに飽きる」
と表現されています。
研究上は、もう少し正確にいうと、
同じ匂いに対して嗅覚が順応し、その刺激による摂食意欲が一時的に低下する
ということです。
人間でたとえるなら、
好きな料理でも、ずっと同じ香りを嗅いでいると、最初ほど強く魅力を感じなくなるようなイメージに近いかもしれません。
そして違う香りがすると、
「おっ?」
と再び注意が向く。
猫でも、それに似た仕組みが摂食行動に関わっている可能性が示されました。
だから猫は「少し食べて、あとでまた食べる」の?
猫には、1日に何度も少量ずつ食べる特徴があります。
今回の研究は、この食べ方に、
嗅覚順応 → 食欲低下
↓
時間や新しい匂い
↓
脱順応 → 食欲回復
という仕組みが関係している可能性を、初めて実験的に示しました。
つまり、
「少し食べる」
「やめる」
「しばらくしてまた食べる」
という猫らしい食べ方にも、鼻から入る情報が関係している可能性があります。
飼い主としてはどう考えればいい?

ここで重要なのは、
「じゃあ毎回違うフードへ変更すればいい」
という結論ではないことです。
今回の研究は、猫の摂食行動を調整する仕組みについて調べたものです。
岩手大学も、今後は食欲が低下した猫への給餌方法、高齢猫や病気の猫の栄養管理、ペットフード開発などへの応用が期待されるとしています。
現時点で、
「健康な猫のフードを毎回変えた方がよい」
と研究が推奨しているわけではありません。
ごはんを残したからといって、すぐフードを替えない
猫がごはんを残す理由は、匂いへの順応だけではありません。
例えば、
- 本当にお腹いっぱい
- 暑くて食欲が落ちている
- 好みではない
- フードが酸化して香りが落ちている
- 口や歯が痛い
- 胃腸の調子が悪い
- 病気によって食欲が低下している
など、さまざまな可能性があります。
今回の研究結果だけを見て、
「食べない=匂いに飽きた」
と判断するのは避けた方がよいでしょう。
特に、
今まで食べていた猫が急に食べなくなった
場合は、体調変化も確認する必要があります。
「食べないから新しいフード」を繰り返すのも注意
猫が残すたびに別のフードを出すと、
「待っていれば違うごはんが出てくる」
という流れになる可能性があります。
さらに、急なフード変更を繰り返すと、猫によっては胃腸への負担になることもあります。
今回の研究から読み取れるのは、
匂いが猫の食欲に大きく関わっている
ということ。
「新しいフードを次々買うべき」という意味ではありません。
家庭ですぐ意識できるのは「香りを落とさないこと」
今回の研究を普段の猫との暮らしへ置き換えるなら、まず意識しやすいのがフードの保存です。
ドライフードも開封すると、少しずつ香りが変化します。
大容量袋を何か月も開けたまま使うより、
- 袋をしっかり密封する
- 高温多湿を避ける
- 食べ切れる容量を買う
- 長時間出しっぱなしにしない
など、フード本来の香りを保つことは大切です。

新しい袋を開けたときって、いい匂いがするニャ!

猫にとって、ごはんの香りは人間以上に大事なのかもしれないニャ。
高齢猫や食欲が落ちた猫への応用にも期待
今回の研究で興味深いのは、単なる猫の「あるある」を解明しただけではない点です。
岩手大学は研究成果について、
- 食欲低下を示す猫への給餌戦略
- 高齢猫や病気の猫の栄養管理
- ペットフードにおける嗅覚設計
- 猫のQOL向上
などへの応用が期待できるとしています。
特に高齢猫では、しっかり食べてもらうことが健康管理上重要になる場面があります。
「味」だけではなく、
香りをどう感じてもらうか
という視点が、将来のキャットフードや給餌方法に生かされるかもしれません。
この研究で分かったことを5つにまとめると
今回の研究を簡単に整理すると、
- 同じ餌を繰り返すと、食べる量が徐々に減った
- 違う餌を出すと、食べる量が回復した
- 餌を変えなくても、匂いだけ変えると摂食量が回復した
- 同じ匂いを嗅ぎ続けると、摂食量がさらに低下した
- 猫の少量頻回摂食に嗅覚が関係している可能性が示された
ということになります。
ゆず先生のまとめ

結局、ぼくがごはんを残すのは「わがまま」じゃないかもしれないのニャ?

少なくとも、「気まぐれ」のひと言だけでは説明できないことが分かってきたニャ。

猫には猫なりの理由があるんだニャ。

そうニャ。今回分かったのは、その理由のひとつに「匂いへの慣れ」があるということだニャ。
まとめ:猫の「食べ残し」は鼻から考えると面白い
猫がごはんを少し食べて残す。
しばらくするとまた食べる。
違うごはんには急に興味を示す。
これまで「猫だから」で済ませていた行動の背景に、匂いへの慣れと、新しい匂いによる食欲の回復が関わっていることを、岩手大学の研究グループが実験で示しました。
もちろん、すべての食べ残しをこれだけで説明できるわけではありません。
それでも、
「猫は味だけでごはんを判断しているわけではない」
ということを改めて感じさせる研究です。
猫がフードの前へ来て、
まずクンクンと匂いを嗅ぐ。
あの何気ない行動にも、実は食欲を左右する大切な意味があるのかもしれません。
研究論文は2026年4月1日に「Physiology & Behavior」で電子公開され、タイトルは “Olfactory habituation and dishabituation dynamically regulate feeding motivation in domestic cats”、DOIは 10.1016/j.physbeh.2026.115328です。
